神楽坂建築塾・塾生ブログ

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第8期修了制作を見て

渡邉です。

例年に比べて、今年の修了制作は、より社会との繋がりを、より地域での具体的実践を視野に入れたものが多かったように感じます。
2007年3月10日(土)夜の神楽坂建築塾第8期修了制作発表会を拝見した感想です。


先陣を切った【石井さん】は地元での川沿い美術展に「最初はよそ者然として」コミットしはじめて、あっという間にその実行委員の中核になり、やがて河川改修という巨大な力との対峙に至る道筋、そしてその「闘い」の中から良心的な人びとと出逢いネットワークを作り上げてゆくプロセスが生き生きと語られていたのが印象的でした。でも……
……その出発点は「たった一人でのスケッチであった」というのがミソなんですね。その持続的な地元主義みたいなものが、原点であったのではないでしょうか。

その意味で、【渡邊さん】の高円寺への愛憎(?)、お父さんへの反動としての目白への指向性、そして「正反合」の弁証法的な到達点としての独自の、生々しい「都市論」は、自身を対象化した、またカタチを変えた「地元学」と言えるかもしれません。

【鈴木さん】の「実家」は、成果物にまとまっていないのがもったいないのですが、実は示唆に富んだ視点を提供してくださったように思います。次回はぜひ写真などを見せていただきたいものです。

「地元学」の対極としての、「異郷人」からのフィールドワークも見ごたえのあるものが続きました。

【本間さん】のインドネシア滞在をベースにした「Perforation」は、テーマ設定の難解さが会場から指摘されましたが、個人的にはとても興味のある切り口でした。ただ、「異郷人」が具体的に何を指すのか(現在的な旅人なのか、マレー系に対する歴史的な華僑なのか等)、穿孔というべき都市の「穴」の画像などを提示していただければもっとわかりやすく、それこそ「身体的実感」として共有しえたのではないか、という気がします。

海外フィールドワークとしては【三浦さん】のフェズの都市形成史への独自の試論は、夏の自主講座の内容と重なりましたが、やはりの2年の滞在と迷宮案内人としての密度高い調査によって説得力ある内容になっていたと思います。ぜひこの論文を、学会や研究者の間でも発表していただきたいと思います!(あるいは、画像を含めてウェブでの公開なんて、できないでしょうか……)

【酒井Eさん】の「これからの町並み」は、愛知・鞆ノ浦・高岡など豊富な画像を使って、すぐれて実践的に「まちなみをどう守るか」という問題意識が前面に出た、熱意あふれる報告だったと思います。「歩き、知ること」「歩き、気付くこと」「いろんな町の情報を収集すること」という3原則、そして「まちを破壊することに間接的にも加担しないこと」というテーゼは、おそらく建築・設計にかかわる私たちの多くに、鋭い自己批判、検証を迫る一言になるのではないでしょうか。その「実践」の姿勢は、是が非でもわがものとしたいと痛感します。

昨今の風潮に対するアンチテーゼとしては、【風間さん】の「京都円通寺の借景庭園」の「闘う住職」の話も興味深いものでした。論文をじっくり読ませていただきたいと思います。

【吉田さん】の「鎌倉極楽寺のサウンドスケープ」は、音を手がかりに空間を捉え直すというユニークなリポートでしたが、「音によって空間に広がりができる」こと、そしてそれが「自分自身を認識するツールである」というあたりがとても新鮮に感じられました。これは、ぼくたちがまち歩きをする上でも、新しい視点を与えてくれるものだと思います。

愛知だけでなく博多や三重まで果敢に調査に出かけて論文をまとめられた【岸さん】の「開かれていく小学校」も力作だったと思います。「いごこち」を学校に求めたことへの着目や、LD児のストレスへの言及などに報告者の人間性が表れていたと感じます。「オープンスクール」への保護者のコメントなども取材できたらもっとよかったと思います。

【梶原さん】の岡山酒津の児島虎次郎アトリエのアート発信地構想も、ていねいな調査を感じさせました。
【菅さん】のパターンランゲージは、アレグサンダーの同名の著書の考察だと思いますが、ぜひ具体的な中身を読んでみたいと思いました。

神楽坂建築塾の講義に直接に触発されて、自分の手で何かをつくってみたい、という思いを何人もの方が持たれたというのも嬉しいことでした。
オークビレッジ上野氏の講義に感銘を受けて引越した自宅で柿渋を塗られた【金野さん】は本当に実践した者でなければわからない自然素材の実感を話してくださいましたし、古材で美しいライトを製作した【坂橋さん】は、ご自身の専門の世界とも繋がりながら見事に完成度の高い製品を形にした見事な修了制作だったといえましょう。欠席された【川村さん】さんの「床の間」の模型は、プレゼン能力としても内容の高さとしてもとても素晴らしいものだったと思います。
CGおよび3DCADではありましたが、【山口さん】の赤門のプレゼンは、一同息を飲む仕上がりでした。ぜひにもライトの重要文化財、明日館(みょうにちかん)に挑んでいただきたいと思います。

一年間の講座を通して自身の実践や考え方を鋭く問う発表も、また反響を呼んでいました。
【杉原さん】の問題意識は、「住まいの原型」「生きることの意味」までに広がっていましたが、それはとりもなおさず神楽坂建築塾が本来射程とすべきテーマの広大さを表わしているといえるかもしれません。
フラメンコのウェブの中で「住まい・身体・食」の論考を縦横に展開された【中谷さん】の鋭い感性も、またしかりでしょう。内容的にはまだ体系的にまとまっていない面もあるようですが、特に「身体論」に関しては、おそらく他のどの塾生よりも深い実感を伴っているものと推察します。味読の方はぜひ彼女のウェブサイトをご覧下さい。

そうした中で建築の現場からの【田中さん】「職人の手仕事と道具」の発表は、いみじくも對馬氏もおっしゃっていたように、「家づくりの現状に対する勇敢なる悪あがき」のひとつとして心に残るものでした。「プレカット反対」「研ぎ物をせよ、そこでの質的変化が家づくりの質を支える」という指摘は、現場を知る者のみが言える、本質を衝く一言というべきでしょう。


趣向は違いますが、壮大なロードムービーを思わせる【樋口さん】の「土塗られた板倉の分布に関する一考察」は、個人的にはもっとも関心をもって聞かせていただきました。フィールドワークは低速移動が大事、だからキックボードだ!というのは、ちょっと無理があるように思いましたが、一貫している彼の暖かなまなざし、これはここにいた誰もが共有しえたものだと思います。

【時森さん】の「ネット空間で見る神楽坂建築塾関係者のひろがり」は、ちょっと複雑な思いで見ました。1999年の第一期から、実に多くの(数百人にのぼる)塾生、研究生が、また講師の方々が、全国各地で本当に有為な活動を展開していることを、改めて実感します。それぞれの地元で、或いは離島で、建築のフィールドで、あるいはデザイン、行政、学究、ものづくりの場で、一見無関係に見えながらも、やはり「神楽坂建築塾」というひとつの根っこを持って社会に果敢に噛み合おうとしている、すべてを押し流す濁流のような経済の原理の中で、徒手空拳と言われても、「おかしいものはおかしい」と声を上げている多くの仲間たちがいるということを実感させてくれます。しかし、その一方で、そんな大切な仲間たちの存在を、まだまだぼくたち自身が掴みきれていないともどかしさも同時に痛感するのです。時森さんが今回の発表をされた背景には、そんな悔しさもあるのではないか、と勝手な見方をしています。

その思いは、本日の素晴らしい発表を見たからこそ、強く感じたのかもしれません。
だからこそ、忙しい日常の中で制作をまとめられた皆さんに賛辞を惜しまぬと同時に、この繋がりをどうかこれからも持続させていってほしい、と願うものです。
本当にお疲れさまでした。
  1. 2007/03/11(日) 04:03:36|
  2. 座学/フィールドワーク
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:8

コメント

講評ありがとうございます。

とにかく、今の世の中に良くないと感じる事がたくさんあって、もっとこうなればいいのにと思っていても、ひとりでワッ!って言っただけでは、やっぱりどうにもならなくて、どうせ世の中こんなもんだ、なんて分かったようなため息で終わってしまって、なんだかなあって事になるんだけども、でも、たくさんの人とたくさんの交流をして、みんなと共有できる何かが見つかって、ワアアアアアアアアアアー!!なんて事になると、オイオイ何かがどうかなっちゃったりしそうだゾってなれば、やっぱりおもしろいでしょう。まずは、そういう環境というか場というか空気というかそういうのが欲しいと思うのです。せっかく塾に参加したんだから講義を聞くだけで終わってしまってはつまらないですよ。
  1. 2007/03/11(日) 19:54:16 |
  2. URL |
  3. toki #-
  4. [ 編集]

ありがとうございました。

信じられないくらいのクイックレスポンスですね。感謝しつつ、とても頭がさがります。今回相談会やメールなどで、相談にのっていただきありがとう
ございました。なんとか作品を完成できてホッとしています。でも制作していてとても楽しかったのチャレンジして良かったと思っています。
私も昨夜の発表会は前のめりで聞いていました。それぞれに多様な切り口でどれひとつ似通ったものは無かったですし、みなさん深く掘り下げていてスゴイなーと、ただただ感心していました。
私も建築塾に参加して、いろいろ思うところもあるのですが、まだもやもやとつかみどころがない感じです。今度の一年はその輪郭を少しくっきりさせたいと思います。そして建築アマチュアとしての意見もどしどし(?)言っていけたらなんて思っております。九期もよろしくお願いいたします。
  1. 2007/03/11(日) 20:43:16 |
  2. URL |
  3. 坂橋 由紀子 #-
  4. [ 編集]

「地元学」いいですねー。使わせてもらいます。
自分語りに付き合ってもらっちゃってみなさんありがとうございました。
そして一年間、いろいろと手配していただいた事務局のみなさんに大きな拍手を。という気分であります。
  1. 2007/03/12(月) 01:34:27 |
  2. URL |
  3. #HnprPk0E
  4. [ 編集]

コメントありがとうございます。

私はつねづね理論と実践がもっと行き来できたら、もっと豊かでもっと楽しくなると思っていて、場違いを承知でつい無茶な発表になってしまいました・・・。あえて「穴」という言葉を使ったのは、抽象化することでまた別の議論を呼びこむ余地を残したかったのですが、説明が致命的に下手でほんとにスミマセン。
皆さんの純粋でまっすぐな姿勢にいつも学ぶことが多く、とても素敵な時間でした。これからも末永く、よろしくお願いします。
  1. 2007/03/12(月) 09:17:42 |
  2. URL |
  3. kumiko homma #-
  4. [ 編集]

頭が下がります

素早い講評のアップありがとうございました。
いつものことながら頭が下がります。

皆さん様々な視点は持ちつつ、それでも建築塾の持つ方向性とは共通しているな、という印象でした。

発表時間について、3分のプレゼンテーションは短いです。
発表の内容にもよるかもしれませんが、時間設定を考え直して欲しいです。
(次の日の午前中は空いていた訳だし)

渡邉さんの僕の発表についてのコメントにコメントすると、
公開講座の内容と重なるのは、あの内容が僕の研究テーマだからです。
公開講座では、口頭での発表のみでしたが、終了制作は論文として提出しました。
発表会のものはそれを3分に要約したものです。
実はテーマ表ではもっと大きなテーマを出していたのですが、それは一回では無理ということで、今期はここまでとさせていただきました。

ということで、課題を残したところで、来期もよろしくお願いいたします。
  1. 2007/03/12(月) 11:56:12 |
  2. URL |
  3. みうら #-
  4. [ 編集]

次年度も講義録生で、

勉強させてもらいます。
渡邉さん、卒業制作についてここでご報告くださってありがとう。
どれもとても興味深くて見てみたいなと思いました。

Tokiさんへ<先月は楽しかったです、ありがと~☆
また機会があれば神楽坂へも顔を出したいです。

私が住んでいる町は今、駅前再開発で、わずかに残った町屋がどんどん壊されて、
跡地にぶっとい道路が作られています。
美観よりも、経済効率優先、というか車優先なのですよね、ここらは。。。
まだまだあたりまえに土壁のお家が作られていて、いい職人さんも多くて、
ふつうの日本の家ができる、そしてそれがらくらく維持できるはずの土地柄なんだけど、
にもかかわらず、数メートルずれたところに建った新しいお家は
耐震性能を強調するメーカーハウスだったり。。。
くやしいです。

一庶民として何をしたらいいのか、、、、
とりあえず、解体現場に出くわしたときは「かなし~~」「うらめし~~」顔をして
作業員さんを見つめているので、すっかり怪しいオバサンお姉さんになっています。。。。
  1. 2007/03/12(月) 12:05:31 |
  2. URL |
  3. M.A.from OKAZAKI #ysf/cu/k
  4. [ 編集]

発表して良かったです

渡邉さん、そして講師のみなさま、発表を聞いてくださったみなさまに感謝です。修了制作は自分の考えをまとめる良い機会だとつくづく思います。
一昨年の修了制作が「一人で」スケッチした熊谷のまちなみでした。
それを一人で完結してはいけないと思い、地元の作品展に出したことが今年の修了制作へ繋がっています。
一人では出来なかったことが、人が集まると出来たり元気が出たり頑張れたり。
でも形あるものはいつかは無くなる、建築の保存はロマンチシズムでしかない、悪あがき…、自分の無力さを感じたりもしょっちゅうですが、自分ができることはやっていこうと思いました。
  1. 2007/03/13(火) 02:07:44 |
  2. URL |
  3. おいしいみずほしい #-
  4. [ 編集]

皆様、修了制作発表お疲れ様でした。

皆さんがそれぞれ、一番興味のあるところ、課題としてとりくんでいることは違うけど、根底には同じ気持ちがあるから、本当に皆さんの意見にはっとさせられたりうなずいたりの連続でした。

これから、建築塾外の他の人たちに、この「気持ち」を伝えていきたいと思っています。中々理解が得られないことも多いと思いますが、分かってくれる人がこんなにいる、というのが自分の励みになりそうです。

そしていままででいちばん?このブログがにぎわっているのも
ていねいな講評のおかげですね。ありがとうございました。


  1. 2007/03/13(火) 23:26:12 |
  2. URL |
  3. sakai^aichi #-
  4. [ 編集]

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